第7回 自律的な学習者の育成
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1. 自律的な学習とメタ認知
1-1. 自律的な学習者とは
内発的に動機づけられた者
興味を持てない内容についても学習を続ける事ができる者
効率的な学習方略をたてられる者
理解が不十分な箇所がわかる
こういう方法で学習すれば理解しやすいということがわかる
自分自身の理解や記憶の状態を的確に把握し、不十分な場合には効果のある記憶法や理解を促進する方法を選択肢、実行に移す
1-2. メタ認知的活動の2つの機能
自分自身の学習の状態を把握、評価したり、学習の方法を制御、調整したりする認知機能のこと
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3種の評価
理解できた
理解できなかった
理解できたのか、理解できなかったのかわからなかった
メタ認知的理解モニタリングが十分に機能していない状態
実際は理解できていないのに「理解できている」
「理解できたのか、理解できなかったのか分からない」
学習者のメタ認知的モニタリングは的確に行われないことがある
学習内容の理解や記憶に関する目的でテストなどを用いた評価が行われる
学習の方法を制御、調整する働き
例えば算数の文章題を解くときに、図を描いて問題状況を把握しやすくしようとすることがある
自分自身の理解を促すために、自分自身で認知過程を制御、調整している
それぞれの学習者が自分の最も憶えやすいと考えた方法を選択、実行すること
憶えやすいように自信の認知を制御、調整する認知過程とみなすことができる
「分からない内容を理解するためには、最初の基礎的な事項から学習し直してみよう」
「苦手な科目に時間をかけよう」
メタ認知的モニタリングとメタ認知的制御は相互に関連している
学習時に理解が不十分だと思えば(モニタリング)、教科書をもう一度読んでみよう(制御)
1-3. メタ認知的知識の役割
メタ認知的モニタリングやメタ認知的制御と言ったメタ認知的活動は、メタ認知的知識に基づく
自分自身や人一般の認知についての知識のこと
モニタリングに関連したメタ認知的知識
「学習した内容を自分の言葉で言い直してみれば理解しているのか、いないのかがわかる」
「学習したことの要約文をかければ、理解できているということがわかる」
制御に関連したメタ認知的知識
「算数の文章題では頭を使えば理解しやすくなる」
「書いて憶えるだけでなく、同時に発音しながら英単語を憶えれば、よく憶えられる」
メタ認知的活動とメタ認知的知識も相互に関連する
メタ認知的モニタリングや制御の方法を試みて、得られた結果からメタ認知的知識を獲得することもある
1-4. 学力の要素としてのメタ認知
知識の多寡や問題解決の可否が問題とされてきた
しかし、それを支えるのはメタ認知
メタ認知は、知識の獲得や問題解決に深く関わっている
メタ認知的モニタリング, メタ認知的制御が的確に行われないのは非効率
古代土地制度の学習の例
墾田永年私財法, 三世一身法、荘園の成立、班田収授法を並び替える
語呂合わせで憶えていた者よりも、公地公民の制度が徐々に私有制に移行していったという大きな流れの中にそれぞれの事象を位置づけて憶えた者の方が、大学生になってもよく憶えていた(西林, 1994) 学習過程を推理してたどる
1. 4つの事象の順番を憶えるには、年代を語呂合わせするのも有効な記憶法の一つだ(メタ認知的知識)
2. しかし、語呂合わせ自体もすぐ忘れてしまいそうだ(メタ認知的モニタリング)
3. 理解できて、よく憶えるためには、知識を構造化することが大切だった(メタ認知的知識)
4. なんとか構造化してみよう(メタ認知的制御)
5. 要するに、「律令体制の下で、公地公民を原則とする古代土地制度が徐々に崩れていって、荘園が成立した」ということだな(歴史の知識)
6. だから班田収授法→三世一身法→墾田永年私財法→荘園の成立のはずだ(歴史の知識)
7. こうして憶えれば同様の問題が出題されても、長く憶えていられるだろう(メタ認知的モニタリング)
知識の獲得に至るまでには、歴史の知識だけでなく、知識の獲得までの認知過程をリードするメタ認知が関わっている
メタ認知能力も学力の一部といえる
2. 自律的な学習と自己調整学習
2-1. 学習者が用いる自己動機づけ方略
中学生が自らを学習に動機づける方法を調べた結果は、表7−1のように8つに分類できるものとなった(伊藤・神藤, 2003) 1. 整理方略
ノートをきれいに、分かりやすくとる
部屋や机の上を片付けて勉強する
2. 想像方略
行きたい高校に受かったときのことを考える
将来の自分自身のためになると考える
3. めりはり方略
勉強する時は思いっきり勉強して、遊ぶ時は思いっきり遊ぶ
「ここまではやるぞ」と、量と時間を決めて勉強する
4. 内容方略
自分のよく知っていることや興味のあることと関係づけて勉強する
語呂合わせをしたり、歌に合わせたりして憶える
5. 社会的方略
友達と教え合ったり、問題を出し合ったりする
友達と一緒に勉強する
6. 報酬方略
勉強が終わったり、問題ができたら、お菓子を食べる
勉強やテストがよくできたら、親からごほうびをもらう
7. 負担軽減方略
得意なところや簡単なところから勉強を始める
飽きたら別の教科を勉強する
8. ながら方略
音楽を聞きながら勉強する
勉強の合間に趣味や楽しいこと(読書、スポーツ、ゲームなど)をする
伊藤・神藤(2003)はそうした自己動機づけ方略と教科の学習に対する動機づけとの関連や、用いる自己動機づけ方略の学年差も調べている
その結果、
表7-1の1~5までの各方略を用いている者ほど教科の学習に対して内発的に動機づけられ、
6,7を用いている者ほど外発的に動機づけられている傾向があった
それぞれの自己動機づけ方略の使用頻度の学年差については、
想像方略は中学1, 2年生に比べて中学3年生で用いる頻度が高く
報酬方略は2,3年生に比べて1年生が高い
2-2. 自己調整学習と発達差
自らの認知をモニターし、制御、調整すること
飽きる気持ちや、課題の遂行が困難なときにすぐに見切りをつけてしまいたい気持ちを制御、調整すること
これら2つは自身の学習を自らが制御、調整する点で共通している
一般的には人が自分自身の認知、行動、そして動機づけをモニターし、それらを自分が望む方向に制御、調整しようとする機能を指す
学習の向上という方向性
認知、行動、動機づけをモニターし、制御、調整すること
認知面の働き
動機づけ面での働き
メタ認知の領域
動機づけの領域
子どもの発達の領域
社会的領域
特別なカードが何なのかなど、必要な情報を欠いていた
「2人に4枚ずつアルファベットのカードを配り、それを重ねて一番上のカードから1枚ずつめくり、特別なカードをもっているか調べます。次のカードでも同様に調べます。そして、最期にたくさんのカードをもっている人が勝ちです」
いずれの学年でも情報不足を指摘できた者はいなかった
実際にゲームをするのに必要な情報を自分自身がもっているのかについてのモニタリングができなかった
3年生は最小限のヒントが与えられると情報の不足に気づいたが、1年生は実際にゲームをやってみないと情報不足に気づけなかった
示されたこと
小学生のメタ認知的理解モニタリングの能力が大人の水準には達していない
等しく児童期の子どもでも年齢間にメタ認知的モニタリング能力の発達差があることを示している
メタ認知的知識やメタ認知的制御の発達にも年齢間で違いがある
子どもが12枚の絵を4つの方法で憶えている様子を映したビデオを見せる
どの方法がよく憶えられるか4歳児と小学校1年生、3年生の児童に尋ねた
結果
記憶にとって有効なカテゴリー化とリハーサルを選んだ者は、年齢を追うごとに増えた
その有効な方法を選んだ者のうち、実際にその方法を用いて記憶した子どもの割合を調べたところ、年齢が上の者ほど高かった
メタ認知的制御能力の発達は、成熟的要因によって自然に獲得されるというわけではなく、経験によってもたらされる面が大きいとする見解を示す研究が多い
2-3. 自己調整学習と他者の関係
自己調整学習の社会的領域の研究では、他者との相互作用を重視している e.g. 援助要請
休み時間に教師に質問しに行く
成績がいい友達に教えてもらう
教科書や参考書と同様の外部の知的援助資源として、他者を自発的に利用しようという点で、自己調整的な学習にあたると考えられる
自己動機づけにおいてお、他者の存在が一定の役割を果たす 大学生を対象に、彼らにとって難しい羅列的に書かれた文章をまとまりのある文章に書き直す課題を課す
それを難なくやって遂げるモデルを観察した場合
コーピングを使いながら課題を行うモデルを観察した場合 後者の方が成績がよかったことを報告している
困難な課題にストレスを感じながらも、それを解消しながら課題を続けるモデルの様子を自分に取り入れ、自己動機づけを行い、学習が続けられたためだと考えられる
自分にとって適切な学習目標の設定
その実現方略についてのプランニングなどが行われる
学習課題についてのメタ認知的モニタリングや制御
学習時間の管理
自己動機づけの喚起など
学習結果のモニタリング
その結果の原因帰属などが行われる
3. 自律的な学習者の育成法
3-1. メタ認知の育成
1. 教師が有効な学習方略を子どもたちに教授する
2. その方略を含め効果に違いがある複数の学習方略を実際に試させて、効果の違いを実感させる
3. 有効な方略の使用の意義を確認させる
4. その方略の定着を図るために、教師が当該の有効な方略を使用できる状況をつくり、実際に使用させる
5. 別の有効な学習方略についても、同様な過程を繰り返す
こうした過程を辿ることで、メタ認知的制御ということに敏感になり、学習に際して意図的に効果的な方略を選択、実行できるようになることが期待できる
メタ認知的モニタリングの育成法の先駆的な例として考えられるものの1つ
生徒の一人を先生役に割り当て、先生役の生徒が生徒役の生徒に対話を通じて指導
効果的な読解方略と、その使用法
「文章の要約の仕方」
「質問の作り方」
「不明確な部分の明確化」
「次に書かれている内容の予測」
先生役と生徒役は交互に交代した
相互教授法により学習した場合、教師が直接読解方略を教授した場合と比べて、事後の読解の成績が高かった
この過程で的確な理解モニタリングが行われたと考えられるのは
生徒役が先生役の生徒から効果的な読解方略とその使用法を学習するだけでなく、
先生役の生徒にとっても生徒役への説明や質問を通して自身の理解内容が言語化され、外在化されるから
的確な理解モニタリングの下で教え、教えられる活動を通して当該の内容の学習が進められた
理解がより深まり、高成績につながったと考えられる
3-2. メタ認知能力を育成する実践
メタ認知の育成という観点からの実践的な取り組み
「何々がわからなくて困っている」という認知的な問題をかかえる学習者に対する個別的な相談と指導
その活動を通して心理学研究と学習指導をつなぐという趣旨で行われている実践的活動(市川, 1995) その指導方法として市川, 1993が挙げる6項目のうち、ここではメタ認知的モニタリングに関わる3つを取り上げる どこがわからないか、なぜわからないかを言わせてみる
これによって、自身の理解の状態が明確になるとともに、
学習場面でメタ認知的モニタリングをしようとする意識の高まりが期待できる
学習内容について、それを知らない人に教示するつもりで説明させる
これにより、自らの理解の状態が明確になるとともに、
効果的なメタ認知的モニタリングの具体的方略が獲得できる
問題を解いたあとになぜはじめは解けなかったのかを自らに問うてみる
これにより、自分に欠落していた知識や犯しやすいミスなど、注意すべき自分自身の認知の特徴を見出し、次はそうしないよう意識させられる
3-3. 動機づけの自己調整能力の育成
動機づけについても自己調整できることが望まれる
表7−1でみたように、中学生でも様々な動機づけを高めるための自己調整を行っている
動機づけの面での自己調整能力を育成するためには、自己動機づけ方略のレパートリーを紹介し、それぞれの方法を実際に試させることで、有効な動機づけの自己調整が可能になると考えられる
ある大学生の例
高校生の時に歴史の学習で歴史上の人物に好きな俳優を当てはめた
教科書や参考書の内容に沿いながらオリジナルの脚本を書いて学習したため、楽しみながらできた
内容方略の「自分のよく知っていることや興味のあることと関係づけて勉強する」に関連
学習内容の理解や記憶にとって効果があるだけでなく、自己動機づけの方法としても優れたもの
教師がこうした自己調整的な学習法を他の生徒達に紹介することで、それを自分の学習方略として取り入れたり、自分自身で新たな学習方略を考えようとしたりする者が現れることが期待できる
学習に関する目標をどのように設定するのかによって、自己動機づけの程度は異なる 抽象的な内容<具体的目標
「一生懸命に頑張ろう」<「15分で1ページやろう」
長期的な目標<その日に達成すべき直近の短期的目標
等しく直近の短期的目標でも、長期的な目標と階層的に結びついている場合には、動機づけに及ぼす効果はより高くなる可能性がある(中谷, 2012) 頑張れば達成可能な目標=自分にとって難易が適切な水準の目標を設定できること
自己動機づけには必要